ボンクラプログラマーの雑記帳

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PSYCHO-PASS3(サイコパス3) 考察と推測 経済をも食らう怪物《ラウンドロビン≒シビュラ》への叛逆 

はじめに

「正義」は、新たな世界を切り開く。

待ちに待ったサイコパス3におけるこのキャッチフレーズの意味が、まったくわからない。実はそんなまま本編を見終わってしまった。

どこに「正義」はいるんだろう。どこもかしこもシビュラシステムやインスペクターたちに回り込まれているじゃないか。そう思っていた。

そこで、謎として残されている部分を列挙してみた。

常守朱が囚われている理由。慎導灼《しんどうあらた》の父、慎導篤志《しんどうあつし》が死んだ理由。炯《けい》・ミハイル・イグナトフの兄、煇《あきら》・ワシリー・イグナトフが死んだ理由。

そして、いま明らかになっていて関連しうる部分を列挙する。

ピースブレイカーの終焉。日本国省庁による幾多の内政干渉。無知の群体による活動の実現。

そこから見える推測は二つ。

ラウンドロビン≒シビュラ。

そして、常守朱を筆頭とした明確なシステムへの叛逆。

そこまで行って、私は納得した。
「正義」は、新たな世界を切り開きつつあると。

この記事は、今後公開予定の劇場版を前にしてこれら二つの推測に基づいて情報を整理しておこうというものである。

この考察において、答えが合っているかどうかはそこまで重要ではない。

私の思い込みを羅列しておき、その妥当性は本編とこの記事を読む人に渡して任せてしまおう。そういう感覚の記事である。

 

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対の存在:分散システムのラウンドロビンと集権システムのシビュラ

ラウンドロビンを持つビフロストの目的は、治安の維持を遂行するシビュラとは異なり、利益の拡大にあるとみられる。時折対立しているようにも見えるが、実際はシビュラが治安の維持のためにラウンドロビンの経済活動を調べているような構造だろう。

わかりやすくいえば、シビュラが国で、ビフロストが企業と言った感じで、目的が違うようなのである。

そうして目的の違うシステムではあるはずなのだが、ラウンドロビンの挙動はドミネーターと非常によく似ている、というのは誰にでもわかるように見せられている。だがあそこまで露骨に見せているなら、他にも似ている、あるいは同一の要素があるんじゃないのかな?と考えながら振り返ってみる。

まずはコングレスマン、インスペクター、キツネの三階層構造から類似点を考えてみる。

わかりやすいものからいえば、インスペクターという表現はサイコパス3の1話をみると監視官に対して「INSPECTOR」という表記が見えるため同一とみなしてよい。

キツネは一般人だが、これは執行官に相当する。

そして最後のコングレスマンは直感に反するが、立ち回りとしてはシビュラそのものである。霜月かわいい課長でも、花城対物ライフル撃てるウーマンフレデリカでもない。

コングレスマンがシビュラの立ち回りなのは、彼らコングレスマンが使用するシステム、ラウンドロビンとそれが行う経済活動が関係してくる。なのでここからは類似点ではなく、相違点として、ラウンドロビンの話をしよう。

ラウンドロビンという言葉が意味するのは、作業・仕事の負荷を順番で割り当てるシンプルな負荷分散の方式である。実際にITシステムにおいても負荷分散の方式としてラウンドロビンの言葉は登場するし、世界最大の分散型システムであるwebでも採用されている箇所は大いに存在しうる。

ラウンドロビン、負荷分散方式が必要なのは、最も発展させやすい経済活動システムは、人間や企業と同様、分散システムだからである。

と言ってみてもよく分からないと思うので、逆のものを挙げればわかりやすい。分散システムの対極の存在とは、集中システム、あるいは集権システムと呼ばれる、シビュラシステムや軍、国である。

国や軍は、特定の集団の利益を保護するために存在するシステムである。シビュラシステムも国や軍と変わらず、集団、つまり市民を保護するようにできている。これら集権システムは保護を目的にするため、基本的に外部との関係に関して保守的に動くようにできている。

サイコパスの話で置き換えれば、日本、というよりシビュラはそもそも鎖国を続けていた。そして国内外に壁と薬とスキャナを用意することで、市民を守り続けていたわけである。

しかし現実世界の国で鎖国しているところなどそうそうない。鎖国している、あるいは非常に入るのが難しい地域とは紛争地帯であり、危険な国家のいる独裁地域である。そんな地域は、今の先進国と比べれば、残念ながら豊かな暮らしとはいえない状況に陥りがちである。それは食べ物、衣服、住居をはじめとしたあらゆる物資、技術、サービスが輸入できないからである。

輸入ができなければ無から自分でつくるしかない。それはソフトウェア開発でありがちな「車輪の再発明」、あるいは「賽の河原」のように、「生産性がない」と表現される。その生産性のなさをなんとなく知りたければ「1984年」の冒頭を読めばなんとなく察しがつくだろう。茹でキャベツと古いマットのにおいがする玄関ホール、動かないエレベーター、昼間は断たれる電力供給、そういう感じである。

 

 

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

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以上のように、集権システムには保護の機能はあっても生産性がない。

「生産性がある」とするには、輸入を行い、単価を上げて輸出を行う他ない。それらを基本的に行うのが、他の存在を認めてやりとりする、分散システムである。人間、企業、ラウンドロビンがこれに相当する。国は一般的には輸出入の基盤となる。

人間だと抽象的なので企業として考える。ある製品をつくるメーカー企業の場合、まず材料を持つ企業から買い付ける。国をまたぐならこれで輸入となる。そして材料をもとに製品を組み立てる。今度は企業や個人に対して経費と利益をもろもろつけて売る。国をまたげばこれで輸出となる。そうすると最後に純粋な利益として余剰金が生まれるので、それを使って新しい商売を考える。

そう、商売はあくまで増やす方向だけに限らないのである。逆に言えば、同一の製品を増産したところでそれが売れて成長できるとも限らない。それが売れるかどうかは客も正確には決められない。その時欲しいと思われたものが買われる・使われるだけなのである。つまり、結果は演算不可能であり、誰にも分からない。

分散システムは、集権システムのような成功も失敗も、自己責任とする。そうして仮想的な選択と淘汰による棲み分けを繰り返させる結果、良質かつ求められている経済活動を行える構造へと、群体によって変化し続けていく。そこに大小の優劣はない。そうすることで、今の世界の経済を作り上げているのである。

ビフロスト、つまりラウンドロビンとコングレスマンもまた、経済的な発展がどのようにして最大化するかはわかっていない。そのために、この分散システムという手法を使用し、数人がかりで賭けることで、負荷の分散を実行する。生産性の競争を行い、経済的な発展を目指す。それは、集権システムであるシビュラとは根本的に思想の異なる手法となる。


ラウンドロビン≒シビュラという推測

以上のように全く異なる性質を持つシビュラシステムとビフロストのシステムだが、彼らが敵対しているとは私は考えられない。むしろ逆で、切ってもきれない縁が発生していたりする。

まずはじめに、現在の先進国は、国と企業は共存関係をとっている。

さきほどまで述べてきた通り、国は治安を安定させるが生産性を持つことはできない。
一方の企業は生産性を肩代わりするが、治安の安定という方向に常に割り当てる力は、生産性が犠牲になるため、少ないか、存在しない。

国と企業は自らの利点を互いに差し出すことで、自らの弱点を克服するように動いている。

これがシビュラを持つサイコパスの世界に置き換えられたらどうなるか。

歴史的にシビュラか、ラウンドロビンとコングレスマンを持つビフロスト、どちらが先に生まれたのかはわからないが、少なくとも共存の関係を築くことだろう。

共存の結果もたらすことのできる力は、唯一神への到達という妄想を実現可能とする。

それが、現在シビュラを擁する日本が世界の文明の頂点に至った理由だと、私は推測している。

1984年」のような茹でキャベツと古いマットのにおいがする玄関ホール、動かないエレベーター、昼間は断たれる電力供給。そんなものはシビュラ一強であるはずの2100年以後の日本には、廃棄区画でない限り存在していない。

その一方で、奇跡に等しいハイパーオーツ、ホログラムの常用、無停止で動き続けるシステム群が広がる。それだけではない。異次元の雷=ドミネーター。人間の脳を加工して取り込むシビュラ中枢。無限大に等しいビルを構築する東京。

すべての技術と材料を、日本国内でまかなえるわけがない。

シビュラは企業を使い、その企業をラウンドロビンが操る。そうした関係がサイコパス3では描かれるのだが、そんな周りくどい関係では、2100年の日本は完成し得ない。シビュラとラウンドロビンの原点が同一でなければ、不可能な事項があまりに多すぎるのだ。

ではここから、シビュラとラウンドロビンの原点が同一であるという推測の理由となるこれまでのサイコパスシリーズで明らかになった事象を整理する。日本国省庁による幾多の内政干渉。無知の群体による活動の実現。そして、ピースブレイカーの終焉。


日本国省庁によって実施されたシーアンでの内政干渉。これらはシビュラ拡大という目的を持っているようにも見えなくないが、先述の通り、シビュラのような集権システムは拡大よりも保護や保守に手をまわすので、よほどの事情がない限り拡大を行おうとはしないはずなのである。その背景に経済的な活動が含まれていて、その利益をシビュラが受けることが可能だとビフロストから進言がない限りは。その背景に国内企業の拡張による納税額の上昇とかいう勘定が入ったために内政干渉は開始されたとみられる。


無知の群体による活動の実現。これはサイコパス3以前、サイコパスSSの罪と罰サンクチュアリによってすでに実現したことが伺える。しかしこちらはビフロストによるものではなく、シビュラによって実行されていたものである。これほどまでに実行手順が似ているにも関わらず。これほどまでに無菌室のような官僚構造を構築可能なシステムが、別の原点、設計思想を起源としているとは考えられない。


ピースブレイカーはシビュラ社会レベルでの武装能力を提供可能だった組織だ。シビュラ社会の軍事能力は、はっきり言って異次元だ。片方は痛みを感じないドローン兵、片方はアサルトライフルAKシリーズのコピー品だけで闘う付け焼き刃の兵隊。そういった非対称の戦場を完成させることが可能な力である。

これらのシビュラ社会の恩恵を預かる兵器たちが、シビュラの干渉抜きで世界中に出回らせること自体、普通の社会の人間には不可能だ。一連で計画した時点で潜在犯になってしまう。そこにはシビュラとラウンドロビンによる密な協力、例えば技術的協力や供給連鎖管理《SCM》の構築を避けて通ることができない。

また、シビュラ社会があれほどまでの品質過剰な殺人兵器とそのソフトウェアを用意できるのは、世界中の紛争地帯での実運用の賜物ではないかとソフトウェアプログラマーの私は常々思う。

ソフトウェアの品質は、その複雑さのために、はっきり言っていままで人間の創ってきたあらゆる道具と比較して圧倒的に低い。想定されるシチュエーションのなかでも動かないのはテスト中に当たり前のように起きるし、いざ実運用が始まると要件の不足によりごく普通に停止する。サイコパスの世界におけるドローンやAIたちには、そのような停止はほとんど存在しない。どこか世界で本番運用を繰り返し、ソフトウェアの基盤となるアプリケーションフレームワークを修正し続けなければ、使い物にならないはずなのだ。そのソフトウェア修正が、何も知らない一般市民が全てを知った上で実施できるとは考えにくい。確実にアリの社会を構築しなければならない。

 

以上の理由から、日本国省庁による幾多の内政干渉、無知の群体による活動の実現。そして、ピースブレイカーの背景には、シビュラとラウンドロビンの原点が同一であるという推測が立てられる。
つまり、ラウンドロビン≒シビュラという推測である。

ここまではあえて作品の世界観の設定のみでアプローチを行ってきたが、このように推測すると登場人物たちの行動が噛み合ってくる場所が出てくる。

 

シビュラとビフロストを繋ぐ慎導篤志と煇《あきら》・ワシリー・イグナトフ

慎導灼《しんどうあらた》の父、慎導篤志《しんどうあつし》が死んだ理由。炯《けい》・ミハイル・イグナトフの兄、煇《あきら》・ワシリー・イグナトフが死んだ理由。これらはいまだに謎だが、少なくとも二人はシビュラとビフロストの両方を把握する存在であったことはわかっている。特にラウンドロビン≒シビュラという推測からは、慎導篤志《しんどうあつし》がピースブレイカーの壊滅に関わっている可能性が見えてくる。

慎導篤志《しんどうあつし》はシビュラ輸出の関係者であり、同時にインスペクターだった。ここでもしもシビュラ≒ビフロストだったとしたら、両方の繋がりを把握することは困難でなかったはずである。そして、一度は終末救済計画を聞き、やめるべきだと進言しているものの、何か大きな葛藤が存在していた可能性がある。例えば、ピースブレイカーを終わらせるためにシビュラ輸出を行ってきて、ついにある場所に投入できたものの、どちらも出自が同じだったことを把握したとしたら。

煇《あきら》・ワシリー・イグナトフは篤志と比較して情報が少ない。ビフロストでは知られた存在であることと、篤志と仲が良く、しかし殺された可能性があるということしかわかっていない。炯《けい》よりも先に戦場に一度戻り、その後何かの心境の変化があった可能性はあるが、全てはわからない。もしかしたらピースブレイカーによって母国を蹂躙され、その復讐のためにインスペクターになって潜入していた可能性がある。

二人ともに謎から線をつなげられない状況ではある。ただどちらもシステムへの叛逆を行うための動機は揃えられている。これは劇場版の公開を待つしかないだろう。

そしてその叛逆の要になっているのは常守朱だとみられる。

 

常守朱を筆頭とした明確なシステムへの叛逆

ラウンドロビン≒シビュラという推測に至ったのは、ほとんど常守朱が囚われている状況から引かれたものである。朱は、ピースブレイカーの破壊のために局長殺しを実行した可能性がある。

サイコパス3の1話で花城の語る、ようやく突破口が開けた、朱の行動が我々を導いているという発言。まだサイコパスSS3の時点では存在していたはずのピースブレイカーの終焉。朱の語るこの社会にひそむ本当の罪。これらは、ただシビュラそのものである局長を殺しただけではつながらない線のはずなのである。しかしビフロストが加わることで、以下のような表現が可能となる。

シビュラの代理=厚生省と、ビフロストの代理=ピースブレイカーの関係を明らかにする現場に、局長がいた。朱は局長の不正を終わらせるため、殺害に踏み切る。そしてピースブレイカーと禾生は壊滅。そのさい禾生サイコパスを朱はあえて診断せず殺した。このため現行犯逮捕。公式としては、ピースブレイカーと厚生省の不正は禾生とともに葬られ、同時に朱は裁きを待つこととなった。この代わりとして細呂木局長が任命された。ビフロストはピースブレイカーの破壊により壊滅的な破産に追い込まれ、少なくともひとりのコングレスマンが執行される。そして、ピースブレイカーから関連が見出されたビフロストの息のかかった存在、狐の存在が明らかになり始め、これらを狩るため、そして、この社会にひそむ本当の罪にたどり着かせるために監視官のふたりは選ばれた。うちひとりは、免罪体質であることまで織り込み済みで。

あくまで推測なので妥当性に欠けるが、朱が慎導灼《しんどうあらた》の父、慎導篤志《しんどうあつし》の事件とは直接の関係はないだろうというところがポイントとなる。これは、灼《あらた》や炯《けい》が朱の事件に関しては仔細に調べているわけではないという状況か推測された状況である。

そして、この社会にひそむ本当の罪こそが、ラウンドロビン≒シビュラによってもたらしてきた、システムによる世界中の支配による豊かで健やかな平和の歴史、という話なのかもしれない。

朱はドミネーターで裁けないビフロストやシビュラという存在に対して、あえて自らが殺しを実現し、裁判によって裁かれるという「正義」の復活をもって、新たな世界を切り開こうとしているのではないだろうか。これがもしも実現できれば、ビフロストとラウンドロビン、それだけでなくシビュラすらも裁くことができるようになる。それは、これまで暴走し続けて、それでもなお止める術を持たなかったシステムの抑止力となることだろう。

正義がシビュラの世界で本当に復活する日は近いのかもしれない。

 

おわりに

今回はラウンドロビン≒シビュラ、常守朱を筆頭とした明確なシステムへの叛逆というふたつの推測に基づいて情報を整理した。しかし現時点では灼《あらた》のメンタルトレース時に出現する父親、狐の怪物や、なぜ都知事が繰り返し狙われるかなどについてのつながりは見えていない。これらの謎は劇場版の公開を待つしかない。

この作品の個人的な感想だが、久しぶりに何度も見返したくなる作品に出会えて非常に嬉しい。SFとしてはサイコパスのような作品が好みなのでしばらく楽しむことができそうである。

サイコパス3のノベライズを読んだりもう一周サイコパスシリーズを見たりしながら、私は次を待ち続けようと思う。

 

PSYCHO-PASS サイコパス 3 〈A〉 (集英社文庫)

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