ボンクラプログラマーの雑記帳

目を開けたまま夢を見るプログラマーの雑記です。

スクリプトver2.0が完成しました〜

街がクリスマスイルミネーションに包まれるなか、私は足を引きずって病院に向かいました。

昨晩に足の小指をタンスに強く打ち付けたからです。深夜に痛みで目覚め、歩くのも大変でさすがにまずいと思い会社に休みの連絡を入れ、整形外科へ。

 

先ほどのを原文ママで伝えるとお医者さんに笑われ(それはそう)、結局レントゲンをとってもらい、骨が折れていないことを確認、看護師さんに薬指を添え木のようにするテーピングをしてもらったらものすごく歩きやすくなり、帰りの足取りは驚くほど軽かったです。

 

そんな帰り道にふと気づくわけです。これらすべてに、さまざまな仕組みが取り込まれていると。会社の有給制度、わたくしのしょぼい財布でも軽い感覚で診察を受けられ、レントゲンすら簡単に撮れるようにしてくれた国民皆保険制度、整形外科の世界で洗練された処置。私は人類史上かつてないほどの完成度のシステム達の摩天楼の中で暮らしを享受していたのです。

 

昔はこんなふうなことに気づく瞬間はあまりなくて(間違いなく必要もなくて)、こんなしょぼい理由で休んじまったなあ……くらいのことしか思わなかったとみられるのですが、かつてと今とで何が自分は変わってしまったんだろうと思えば、やはり理由はひとつなのです。

 

オリジナル作品、スクリプトがver2.0としてついに完成したのです。

 

S-Crypto(スクリプト)  - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816452220093672224 

 

この作品をつくるなかで色々読み書きしてきた成果が、この今日のようなふとした出来事を思考させる知性を与えてくれたのです。あるいは余剰、ムダと言ってもいいかもしれません。

 

もともとカクヨムコン7に正式に出そうとか考えてなくて8万文字でもいいんじゃないかとか色々言ってたり書いてたりしていたわけですが、ある人のカクヨムコンをがんばる姿をつぶやいた〜でみていたら、なんだかじぶんもがんばりたくなる気持ちになれました。

 

オリジナル長編をここまで完全に完成させたことは、人生で初めてでした。

確かにbondやLOPというギルティクラウン改変作品でそれぞれ単行本何冊分かを書いてきたわけですが、作品内外のすでに素材があるもの、ver1.0(原作)を理想的なアーキテクチャへと更新し、特殊なver2.0(LOP)、ver3.0(bond)へと書き換えていくという我流の改変作業を、さらに深化させていく必要があったのです。

 

それは、ver1.0をつくるための大規模な試行錯誤です。自らの知識や経験をさらに広く、深く追求する。例えば、必要となると思われる幾千の素材を広く思い出す作業。媒体を問わないこれら重大なアイデアを、記憶の中から抽出《エクストラクト》する。それらを物語たり得るひとつの物語、例えばログラインに落とし込む。そのたったひとつに束ねられたアイデアが、自分の頭の中に強く、深く突き刺さり、自分の思考回路という無限にループするイベント駆動型システムが、勝手に物語を出力し、そのアイデアに自らが呪縛され始めるその瞬間まで。

 

たとえば、目を開けたまま見る泡沫の夢としての通貨、とか。

 

原初のアイデア、いわばver0.1が自らの脳にインセプションされてからは、さらに過酷さを見せていきます。物語の生成する物語があまりにも稚拙ですぐに壊れていくことを、常に認識し続ける羽目になります。その解消のために、再起動のためにも、結局大量の媒体を自分という思考回路に食わせていくしかありません。もはやここまでくると、ソフトウェア開発となんら変わりません。深刻なバグ、不具合、ダメな仕様との戦いです。半年以上の時間をかけてようやく、ver1.0ができたわけでした。

 

ですが話はここでは終わらないのがオリジナルです。たまたま開催されていたカクヨムコン7には間に合わない分量の8万文字しかありませんでした。そこで、より多くの人に読んでもらいたいなあとも思い至り、再び絶望的な試行錯誤の中に足を突っ込むことになります。

 

今回ver2.0を作る作業というのは、LOPを書くのと似ていました。作品の全体的なアーキテクチャの見直しと更新です。昔は四年かけてやりました。ですが今回の期間はたった一ヶ月。そもそもそんなことに今ここで書くまで気付かないような状況でひたすら自分の中に大量のアイデアを食わせるという策を打つしかありませんでした。アイデアの暴飲暴食とも言えるそれにより、例えば貧乏人の経済学がその中身となりましたが、どうにか自分自身を今までと違うシステムとして更新することに成功しました。そこからさらに不具合解消のために試行錯誤をすることに。期間の短さもあいまって、完成三日前の金曜日、ver2.0更新作業量の半分ちょいの進捗で、ver1.0でつくりあげた絶望的な複雑さと脆さで成り立つハードワイア的アーキテクチャを前にして、もうだめだ、と弱音を吐くほどでした。

 

ですが、結局ひとつの重大なアイデアMGS4愛国者達の具現化のための、ギルティクラウンからのGHQというフレーズの輸入がこの作品のアーキテクチャ全体を強固にするに至り、ついにあとがき抜きでぎりぎり10万文字という状態にたどり着くことができました。弱音を吐いていた金曜日にマトリックス・レザレクションズを楽しめたこととも、何かしらの関係はあるのかもしれません。

 

かくして、クリスマスを脳内の空想に心を押し潰されることなく迎えることができる、そう有頂天になっていたときに、現実に帰りきることのできないままにタンスに小指をぶつけ、冒頭に立ち返るというわけです。

 

足を引きずりながら現実に帰ってきたものの、夢見心地です。きっとそれだけ、物語をつくるのは面倒なのです。いまはいろんなことがぼんやりと、楽しく映ります。ですがこの夢見心地の時間は、きっと長くは続きません。また新しい物語のアイデアに囚われ、目を開けたまま夢に追われ続ける日々が始まることでしょう。

 

けれど、今だけは。

そう思いながら、この物語をつくりあげた音楽達を聴いています。私が得てきたどんな安らぎよりも、平和な安らぎのなか。

いつかこの世界が私の夢見た景色に至るかもしれない。そんな希望を抱えながら。